大学進学率に見る男女間の教育格差-もはや格差はなくなった?
秋が深まってきました。受験生は大学入試に向けて模試が増えてくる季節でしょうか。
今回は日本における大学進学率の男女差と、現役進学率について見てみました。一昔前は教育の場でも明らかに男女間での差が見られ、女子の大学進学率は低いといわれていましたが状況は変わったのでしょうか。
結論からみますと、大学・短大進学率において男女間の差はほとんどなくなり、浪人へのインセンティブは下がってきている可能性があるということが言えそうです。ただし浪人比率や高偏差値への進学は男子学生のほうが多く、男女間の差は完全になくなったわけではなさそうです。
<目次>
高等教育機関への男女別進学率
初めに大学・短大への進学率を男女別に見てみます。青線が男子、オレンジ線が女子、男女間の進学率(男子進学率ー女子進学率)の差がグレーのバーです。
<図 大学・短期大学への進学率>
※過年度高卒者等(浪人生など)を含む
まず驚いたことは、近年はほとんど男女間の進学率に差が見られなくなってきているという事実です。1960年は男子進学率14.9%、女子進学率5.5%でした。この時代、大学に進学する女子は本当に少なかったようです。
戦後、男女ともに進学率は急上昇します。そして90年代には一時女子進学率が男子進学率を上回りました。2019年は男子進学率57.6%、女子進学率58.7%となりなんと女子進学率が男子進学率を超える結果となっています。この結果からみると、高等教育を受けるにあたっての男女間の格差というものはほとんどなくなったといっていいかもしれません。
次は短期大学を除いた大学への進学率です。こちらも男女別に進学率を確認します。
<図 大学への進学率>
※過年度高卒者等(浪人生など)を含む
先ほどの短期大学と合わせたグラフよりは男女間の差は広がっていますが、これでも2019年は男子進学率56.6%、女子進学率50.7%となっており両者の差は5.9%にまで縮んでいます。1970年代は両社の差が約30%近くあったことを考えると大きく前進したといえそうです。また大学進学率は一貫して男子のほうが高く、過去男女間の進学率が逆転したことがないのも特徴です。
大学に進学しやすい状況が到来した
なぜ大学進学率は上昇したのでしょうか。教育に対する理解が普及したこともあるかと思いますが、単純に大学数が増加したことも原因ではないでしょうか。
<図 18歳人口と大学数>
日本の少子化が進んでいることは周知の事実ですが、18歳人口も1990年代後半から減少をはじめ、2010年代には横ばい傾向になっています。
一方で大学数(短大数は除いています)は最近でこそ横ばい傾向であるものの増加の一途をたどっていました。2020年の大学数は795校(速報値)となっています。18歳人口は減少しているのに大学数は増加傾向。そもそも大学数が少なかった時代から比べるとかなり大学進学がしやすい時代がやってきたのではないでしょうか。
ちなみに記載はしていませんが短期大学数は減少しています。
18歳人口1人当たりの大学数が増加するに伴い、大学への進学率も綺麗に上昇しています。
<図 18歳1人当たりの大学数>
学校数が増加したことが進学率の押し上げに貢献したといえそうです。
現役進学と浪人生
さて続いては進学者の内容を現役合格率と浪人生を含む進学率です。薄い緑が現役進学率、濃い緑が過年度高卒者等(浪人生など)を含む進学率です。
<図 現役進学率と浪人含む進学率>
現役進学率と浪人生を含む進学率は年々その差がなくなっているようです。最近は現役で合格できる大学に進学することが増えているのでしょうか。「超安全志向」といわれる大学選びを行う人が増え、現役で合格できる大学に進学する人も増えているといった報道も耳にします。
浪人してまで知名度の高い大学に進学するインセンティブは最近では薄くなってきているのかもしれません。
現役進学率と浪人生含む進学率についてもう少し見てみます。こちらは進学者率について、浪人生を含む進学率と現役進学率の差分を男女別にみたグラフです。
<図 現役進学率と浪人含む進学率の差>
本当であれば高等教育機関進学者の現役・浪人の進学者数から算出したかったのですがいい情報源が見つけられませんでした…。一般的には浪人生を含む進学率のほうが高く出るので、これと現役進学率の差を出しています。
まず男女ともに現役進学率と浪人含む進学率の差は縮んできています。男子については2000年に大きく差が縮み、以降その傾向が継続。2019年は5.9の差となっています。女子についてはもともとほとんど差がありませんでした。
こうしてみると、男女ともに「浪人してまで行きたい大学がない/浪人したいと思わない」と考える人が増え現役進学率と浪人含む進学率の差が減ったとも考えられます。
また「大学・短期大学進学率」という枠組みで見るとほとんど生じていなかった男女差について、こちらでは傾向に違いがあるようです。もともと女子は浪人を嫌がる傾向があったのかもしれません。
ところでなぜ女子の進学率の差はマイナスになっているところがあるのか、浪人含む進学率より現役進学率のほうが高く出ているとはどういうことか、という点についてわかる範囲で見てみます。
過年度高卒者等を含む進学率
そもそも、(よいデータを見つけられなかったために)現役進学率と浪人生含む進学率は類似しているデータを用いているものの、分母も分子も微妙に違う数字を持ってきています。
<表1 現役進学率と浪人含む進学率>
※単位は%
オレンジ色部分では現役進学率のほうが高い数字となっています。
e-stat掲載の学校基本調査年次統計における注釈は以下のとおりです。
大学・短期大学等への現役進学率:各年3月の高等学校及び中等教育学校後期課程本科卒業者のうち,大学の学部・通信教育部・別科,短期大学の本科・通信教育部・別科及び高等学校等の専攻科に進学した者(就職進学した者を含む。)の占める比率。
大学(学部)・短期大学(本科)への進学率(過年度高卒者等を含む):大学学部・短期大学本科入学者数(過年度高卒者等を含む。)を3年前の中学校卒業者及び中等教育学校前期課程修了者数で除した比率。
※太字は筆者
つまりとてもざっくりと見てみますと、2019年の場合、
現役進学率=大学・短期大学・その他の進学者数/2019年3月の高校・中高一貫校の卒業生
浪人含む進学率=大学・短期大学の入学者数/2016年の中学・中間一貫校の中学部卒業者
となります。
分子については現役進学率のほうが広く補足しており「とりあえず進学していたらどこでもOK」という立場に対し浪人含む進学率は「大学化短期大学の本科に進んだ人だけ採用(通信制とかはダメ)」という立場をとります。
また分母についても若干立場が変わっており、現役進学率は「春に卒業した高校生の人数」であるのに対し浪人含む進学率は「3年前の中学卒業時の人数」を利用しています。
おそらくここら辺の理由により現役進学率のほうが高く出る年があるのではと思っています。本来であればもっといい数字(同年の大学入学者数に占める現役合格者と過年度合格者の比率)を比較に使いたかったのですが無念です。
男女別東大の合格者数
男女ともに「大学・短大」への進学率でみるとほとんど差がない(むしろ女子の進学率が高い年もある)ことがわかりました。しかし、大学ではなんだか女子のほうが少なかった気がする…という方もいらっしゃるはずです。
さて大学への進学率は男子のほうが少し多い程度でしたがどの大学でも男女比率は等しいのでしょうか。その答えはNOです。高偏差値の大学では依然として男子生徒の比率が高いです。
日本の有名大学東京大学を例に見てみます。ちなみに東京大学は浪人合格者比率が約3割とかなり浪人比率の高い大学です。そして浪人生に男子学生が多いという事実もあってか、東大の合格者数は男子のほうが多い結果となっています。
<表2 2020年度東京大学合格者数等>
出典:Y-SAPIX & SAPIX & 代々木ゼミナール."2020東大入試状況「男女別割合」".東大合格を目指す受験生のための総合サイト東大研究室.(閲覧日2020/10/30). https://juken.y-sapix.com/articles/11041.html
男女の合格者の差があるのは同人数が受験しているのにもかかわらず男子生徒の合格率が高いせいでしょうか。そんなことはないようです。
<図 2020年度/2019年度男女別合格率(東京大学)>
出典:Y-SAPIX & SAPIX & 代々木ゼミナール."2020東大入試状況「男女別割合」".東大合格を目指す受験生のための総合サイト東大研究室.(閲覧日2020/10/30). https://juken.y-sapix.com/articles/11041.html
このサイトで初めて知ったのですが、一般入試の合格比率は男子生徒が高いということも驚きました。
ちなみに有名大学の女子比率についてはこちらの記事に記載があります。偏差値の高い大学ではやはり男子学生のほうが多いという結果が出ています。
https://bunshun.jp/articles/-/12201
まとめと感じたこと
大学数が増え大学進学が容易になったためか、進学率で見ると男女間の差はほぼなくなったように見える今日この頃。ただ、浪人の状況や偏差値の高い大学は男子生徒のほうが多いようです。
なぜ女子は男子に比べて浪人する人も少なく、また偏差値の高い大学へ行く人が少ないのでしょうか。
田舎ですと実際「女の子なんだからそんなに頑張って勉強しなくても」「女なのに浪人するの?(珍しいね)」という言葉をナチュラルに浴びせてくる人がいます。また親が女子の進学に対し「大学へ行くのは賛成だけどそこまで高い学歴は求めていない」スタンスだと説得に労力がかかります。表には出ないけれど人々の無意識レベルの思い込みが影響を与えている可能性があります。
性別による優秀さには差がないという前提で考えると、周囲のアンコンシャスバイアスといった環境面よりも女子高校生の考え方の変化もあるかもしれません。女子高生は浪人してまで大学に行く意味が感じないのかもしれません。彼女たちが思い描く人生には「学歴」が大きな意味をなさなくなっている可能性もあります。
そしてこれは男子高校生にも一部同じことが言えそうです。現役進学率と浪人含む進学率とが非常に近い数字になってきたということは、男子学生にとっても「もう1年かけてでも偏差値の高い大学へ行く」ことのメリットが減ってきていると言えそうです。(そもそも大学数が少ないので)頑張らなくては大学に入れない時代から、特にえり好みしなければ大卒資格が取れる時代になったといえるかもしれません。
・データ
進学率
学校数
・補足
男女別の現役・浪人の差について触れているサイトもありました。
出典:https://www.kalligram.com/column/ronin/girl
同年度(平成30年)の男女あわせた、全国の受験生の現浪の割合がこちらです。
現役・・・79%
浪人・・・21%
こちらもe-statから抽出した公式データです。
探したのですがこのデータが見つかりませんでした。とても残念です。。。