つきなみレポート

統計とグラフで知る社会と日常のこと。

コロナ禍における転職者 若者の転職者数は減少したがミドルクラスには大きな影響なしか

結論

・2020年以降、転職者数・転職者数比率は減少した。

・年代別では特に34歳以下の転職者比率の減少が顕著であった一方、35歳以上についてはそこまで大きな変動は見られなかった。

 

総務省統計局の労働力調査をもとに資料を作成しています。データソースは最後に記載しています。

就業者数の状況

 こちらにコロナ禍の状況をまとめたサイトがありますが、本ページでもコロナショックの就業者数の推移について簡単に確認します。

新型コロナが雇用・就業・失業に与える影響(新型コロナウイルス感染症関連情報)|労働政策研究・研修機構(JILPT)

https://www.jil.go.jp/kokunai/statistics/covid-19/index.html

<図1 就業者数>

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 2008年リーマンショック以降就業者数は落ち込みましたが2013~2019年までは回復傾向にありました。新型コロナウイルスの影響が日本で広がり始めた2020年以降は就業者数が落ち込んだものの、リーマンショック時のような大きな減少はないようです。2021年の就業者は約6,657万人です。

 それでも2020年は前年と比較して就業者が約48万人減少しました。正規の職員・従業員と非正規の職員・従業員の数を見てみます。

 

<図2 正規・非正規の従業員数 前年比>

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 コロナショック時は正規の従業員数は減少せず、前年比では増加しています。一方で大きく減少したのが非正規の職員・従業員数。こちらは2020年については前年比で75万人減少しています。2021年も非正規の従業員数の減少は続いています。

 リーマンショック以降2009年は正規/非正規共に数が減少し、その後非正規の数が増えていきました。コロナショック時は正規社員数は減少せず(むしろ増加幅は2019年を超えています。)、非正規が大きく減少したことが就業者数に影響を与えた可能性があります。コロナ禍で人との接触が減少した結果、パートやアルバイトで接客などを行っていたサービス業の非正規労働者数が減少しました。

 

小まとめ

・コロナ禍で就業者数は落ち込んだがリーマンショック時ほどではなかった。

・正規の従業員数は増加し、一方で非正規の従業員数は特に2020年は前年比で大きく落ち込んだ。

 

 

転職者の状況

コロナ禍の状況

 コロナ禍における就業者の状況を確認したところで、次に転職者の状況を確認します。「新入社員はすぐに辞めてしまう」など転職者のニュースはたびたび目にしますが、コロナ禍で転職市場は影響を受けたのでしょうか。

<図3 転職者数および転職者比率>

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※「転職者」とは,就業者のうち前職のある者で,過去1年間に離職を経験した者※「転職者比率(%)」=転職者数÷就業者数×100

足元2021年では転職者は288万人にまで減少し、転職者比率は4.3%にまで下がりました。リーマンショック後にも転職比率は下がっていますので、大きなショック後には転職比率は下がる傾向にあるのかもしれません。

 

<図4 年代別転職者比率推移>

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年代別に見ると34歳以下の転職者比率が急落しました。若手社員を含む25~34歳の転職比率は大きく減少しています。

35歳以上の転職者比率を見ると、もともと5%程度と少なかったのですがコロナショック以降で大きく減少している様子は見えません。若者の転職市場は大きく揺らぎましたが、35歳以上の管理職クラスを含むと思われる転職市場は影響を受けにくいのでしょうか。

 

<図5 年代別転職者比率 前年比 2016年以降>

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直近の数字を取り出してみると、2020年の転職者比率は34歳以下が前年比で‐14%と大きく下落しているのに対し、35~44歳は‐6%と減少率は半分以下です。45~54歳にいたっては+3%と増回している様子が見て取れます。

また45~54歳の転職者比率は2021年には‐14%と2020年の34歳以下並に転職者比率が下落しています。この層はまるで1年遅れてコロナ禍の影響を受けたようにも見えます。

 

小まとめ

・34歳以下の転職者比率はコロナ禍で大きく減少した。

・35~44歳の転職者比率は減少したものの、その幅は34歳以下の半分にも満たず、影響は限定的であったと考えられる。

・45~54歳の転職者比率はコロナ禍1年目の2020年には上昇し、自粛期間中にも流動性が高かった可能性がある。

 

 

男女間の状況

 続いて男女間の転職者数の状況を見ていきます。コロナ禍の転職者の状況で気になったのは45~54歳の転職者比率。他の層が軒並み転職を控えている中、この層だけは自粛期間1年目に転職者が増えました。その原因は女性の45~54歳の転職者比率にありました。

 

<図6 転職者数 男女別推移>

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前提として、足元では男性よりも女性の転職者数が高い状況が続いています。2005年頃、リーマンショックより前は転職者数における性差はほとんど見られませんでしたが、2014年以降はその差が(実数で)拡大しています。

2020年以降では、転職者数は男女ともに減少しているものの、女性の転職者数が多い状況は変わりません。2021年では男性約133万人、女性約156万人でその差は約23万人でした。

 

 続いては2020年に唯一転職者比率が上昇した年齢層、45~54歳の転職者比率の状況を男女別に確認します。

<図7 年代別転職者比率 前年比 男性>

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男性45~54歳の転職比率は2020年(前年比)では大きく変化ありませんでした。2021年には前年比プラスで成長しており、自粛ムードが続くコロナ禍2年目には男性45~54歳の転職市場は元に戻ったかの影響を受けます。また、男性35歳以上の2020年の転職者比率は前年比で見てほとんど変化なく、コロナ禍でも影響を受けにくかったと推定されます。

 

<図8 年代別転職者比率 前年比 女性>

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女性45~54歳の転職者比率前年比は2020年に大きく上昇し2021年に下落しています。年代別転職者比率に影響を与えたのは女性であったことがわかります。女性の35~44歳、55~64歳の転職者比率もコロナ禍で大きな変化はなく、これは男性と似た傾向です。

なぜ女性45~54歳の転職者比率だけが大きく動いたのでしょうか。

 

小まとめ

・女性45~54歳の転職者比率は2020年に前年比で唯一上昇した。

・男性の年齢別転職者比率は大きな動きがなかった。

 

以下、非正規率と職業別就業者数を男女別に確認しましたが、理由は明確にはわかりませんでした。

 

 転職者数は男性<女性の状況が続いていることはお示しした通りですが、その内容を年齢別により詳細に確認します。

<図9 転職者比率推移 男性>

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<図10 転職者比率推移 女性>

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 全体として女性の転職者比率のほうが男性よりも高いですが、年齢が上がっていくにつれその差は縮小していくようです。

男性は34歳を超えると転職者比率が5%以下に落ちます。男性は34~65歳以上の転職者比率が非常に近くなります。この年齢を超えると「今の会社でやっていこう」と考える方が増えるのでしょうか。女性も年齢が高くなるほど転職者比率が下がっていく傾向は同じですが、男性に比べ減少度合いはなだらかです。

 

<図11 転職者比率の男女差 年代別>

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55歳以上になると男女間の転職者比率はほとんど変わらなくなります。

 

以降、2020年に女性45~54歳の転職者比率が前年比で増加した理由を男女の非正規率と職業に求められないか確認します。

 

<図12 男女別 非正規率推移>

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まず前提として男女間の非正規率を確認します。2002年から一貫して女性の非正規率が高い状況が続きます。男女間の非正規率の差は緩やかに減少しているようにも見えますが、それでも2021年の非正規率は、男性22%、女性54%と大きな差があります。

 

<図13 非正規比率の男女差 年齢別>

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上図は「女性の非正規率―男性の非正規率」を示したものですが、どの年代においても女性の非正規率のほうが男性よりも高いためグラフの数値はすべてプラスになっています。

 まず、34歳以下では男女間の非正規比率に差はないことがわかります。しかし34歳以下では女性転職者比率のほうが高いため、男性に比べて女性のほうが34歳以下では転職しがち、といえるかもしれません。

 続いて35歳以上の層ですが、これらの層は55~64>45~54>65~>35~44の順で女性の非正規率が男性より高くなっています。

 2020年に転職者比率が前年比で増加したのは女性45~54歳の層です。この層の非正規率が最も高ければ非正規の従業員が多かったため別の職場に移りやすかった、という仮説も考えられるのですが、実際に男女間の非正規率の差が最も大きいのは55~64歳の層でした。非正規率が高いため、ということが理由ではなさそうです。

 

小まとめ

・女性の非正規比率は男性に比べ3割近く高い。

・最も男女の非正規比率差が大きいのは55~64歳層。45~54歳層が突出しているわけではない。

 

 

続いては職業が関係していそうか確認します。ただし、こちらは年齢別の調査がなかったため女性45~54歳の層の就業業種を特的できず、おまけになります。

<図14 職業別就業者数 男女別 2021年>

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 まず男女差について確認します。性別により、どの職業に従事しているかについて大きな差が確認できました。建設、輸送、保安職業についている女性はほとんどいませんが男性は5%前後が当該職業に従事しており、男女差が大きくなっています。またサービス業、事務に従事している女性の比率は男性よりも多いです。なんと女性の28%が事務、18%がサービス職業についており、この2つの職業についている女性で46%を占めます。

 

<表1 職業別就業者数 男女別>

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 残念ながら年代別の調査はなかったので女性45~54歳が偏ってどこかの職業に多く従事しているかどうかはわかりませんでした。

 

まとめ

 生活の様々な部分に影響を与えているコロナ禍。就業者数はやや減少しましたが、同時に転職者数も減少しました。ただし、転職者数の減少は特に34歳以下の若い世代に顕著に表れ、45歳以上の転職者数は比率で見ても大きく変動していません。もともと転職者数比率が高い34歳以下は転職を控えた方が多く、もともと転職者数比率がそこまで高くなかった35歳以上の転職市場にはそこまで大きな影響がなかったと考えられます。

 コロナ禍による自粛が始まった2020年、影響の大小はあるものの軒並み転職者数比率が下がる中、唯一プラス成長したのが女性45~54歳の層でした。非正規率の高さ、従事している職業の関係があるのかと思い確認しましたが本ページでは明確な答えが出せていません。

 

 

 

データソース

総務省統計局「統計局ホームページ/労働力調査 長期時系列データ」(閲覧日2022年3月)

https://www.stat.go.jp/data/roudou/longtime/03roudou.html#hyo_9

 

メモ:用語について

 統計の中で「雇用者」という言葉が出てきます。一般的には雇用者とは従業員を雇って会社を運営する人をイメージしますが、この統計では従業員やパートなどの被雇用者が雇用者に含まれます。総務省統計局のウェブサイトでの解説は以下のとおりです。

 

用語の解説

就業者:「従業者」と「休業者」を合わせたもの。

雇用者:会社,団体,官公庁又は自営業主や個人家庭に雇われて給料・賃金を得ている者及び会社,団体の役員。

 

総務省統計局「労働力調査 用語の解説」2018年5月11日改定https://www.stat.go.jp/data/roudou/definit.html

ちょっとややこしいので記載しています。