20代30代向けファッション誌の分析 印刷部数からみる未来
20代女性向けの月刊ファッション雑誌「JJ」が月刊発行の終了を発表しました。
赤文字系雑誌に大学生時代非常にお世話になった身としてはとても残念であるとともに、現在購入している雑誌ももしかしたら近い将来同じような状況になってしまうのでは…という不安から気になる雑誌の印刷部数を調べてみます。
まずはJJが属する女子大生OL(20代)向け雑誌グループの印刷部数の推移を確認し、JJの最近の状況を印刷部数から確認します。次に、現在愛読している雑誌が属する30代向け雑誌グループの印刷部数の状況を確認し、最後に小学館の「Oggi」が休刊にならないことを願いながら小学館の30代向け女性向けファッション誌の状況を確認します。
・データについて
一般社団法人日本雑誌協会がwebサイトで公開している「印刷部数」を利用。印刷部数とは算定期間(3か月間)の平均印刷部数であり、年間4回公表される。
<2008年4月~2018年9月のデータ>
https://www.j-magazine.or.jp/user/printed/
<それ以降のデータ>
https://www.j-magazine.or.jp/user/printed2
20代向け「赤文字系雑誌」の印刷部数
JJの毎月発刊中止は驚きでした。主観ですがJJといえばCanCam,ViViと並ぶ主要赤文字系ファッション誌だと思っていました。あんなに勢いがあったのにという驚きを隠せないのですが、まずは女子大生~入社数年の若いOLをターゲットとしているファッション誌の印刷部数推移を見てみます。
<図1 20代向けファッション誌印刷部数>
データが公表されている2008年以降若干の盛り返しはあるものの、基本的に印刷部数は減少の一途をたどっています。2008年4月期(2008年4月~6月の平均印刷部数)には約26万部の印刷部数があったJJは直近の2020年4月期にはなんと約4.5万部まで印刷部数を落としております。しかしこれはJJに限った話ではなく、20代向けの主要ファッション誌はいずれも似たような傾向が見て取れます。小学館のCancamは2008年4月期には約55万部の印刷部数があり、上図のグラフでも印刷部数としては1位を誇っています。ただし、その後印刷部数は急落し直近の印刷部数は約5.5万部と1/10の規模となっています。
2010年代前半までは各誌発行部数に開きがありましたが、直近ではいずれも10万部を切る状況となっています。この背景には電子書籍の普及などもあり、純粋に雑誌の印刷数だけではその雑誌の影響力を考えることはできませんが、少なくとも過去10年で「紙媒体の雑誌」はあまり読まれなくなってきているということが言えそうです。電子版のダウンロード数なども見てみたかったのですがデータが見つかりませんでした…。
直近の数字をもう少し見てみます。
<図2 20代向けファッション誌2019年以降の印刷部数>
確かに3誌の中ではJJの印刷部数が少ないですが、CanCamも似たような傾向があります。ViViは印刷部数の減少もなだらかといえそうです。
個人的には大学生時代のバイブルCanCamが同じ運命をたどってしまうのはとても悲しいです。CanCamのお気に入りの号を抱えて上京し、素敵な大学生活にあこがれたあの時の自分がこの状況を知ったら青ざめるかもしれません…。
続いて印刷部数の前年同期比もグラフで見てみます。前年同期比0(変化なし)ラインは黒い太線を引いています。この線より上にバーが伸びていれば発刊部数が増えたことを意味します。
<図3 印刷部数前年同期比(絶対数)>
図の通りですが前年同期比で見た際には2000年代の減少幅が最も大きく(印刷部数が多かったためですが)、最近は毎年徐々に印刷部数が減ってきていたものの今年の4月期にまた減少幅が大きくなってしまったようです。2020年は外出自粛の影響などもありファッションの優先度が下がった人が多かったのでしょうか。自身の生活を振り返ってみても外出自粛の影響で特に服を新調しても着ていく場所がなく、夏服は1枚も買いませんでした。
減少幅を見たところで、これだけでは当然のことしか言っていないので前年同期比に対する印刷部数の増減比率グラフも示します。
<図4 印刷部数前年同期比(増減比率)>
こうしてみると2010年代後半は減少比率が高まっている気がします。特に2020年4月期は2019年4月期と比べても減少比率が大きく出ています。
ただし、ViViについては他の2誌ほど減少比率は目立っておらず、CanCamもまちまちといったところでしょうか。小学館ファンとしてはCanCamの来期の回復を願っています。
30代向け向けファッション誌の印刷部数
続いて、女子大生~OL向けの雑誌から1つ世代の上がった30代女性向けのファッション誌の状況です。個人的には現在自分が買っている雑誌の未来に興味があります。かつてCanCamの読者であった私は、大学生の後半から社会人になりたての頃、CanCamのお姉さん雑誌AneCanという雑誌を愛読していました。社会人になって自由に使えるお金が増えたらこんな服や靴を買うんだ…と胸をときめかせながら雑誌を何度も読み返しました。付箋をはったり切り抜きを作ったりとお気に入りのファッションを見るのが大きな楽しみでした。しかしAneCanは私がちょうど社会人生活を楽しもうとしていた時に休刊になってしまったのです。毎月の楽しみも無くなり、そのショックはかなり大きいものでした。できれば(不謹慎ながら)心の準備はしておきたい…というのが本音です。
<図5 30代女性向け雑誌の推移>
※参考のため水色の点線で20代向け雑誌のCanCamの印刷部数を表示しています。
まず30代向けの雑誌にいえることは、いずれも印刷部数は減少傾向にあるものの、その減少速度は20代の女子大生などを対象とした雑誌に比べ緩やかであるということです。
20代女性の間では一時ファッション誌が流行しましたが、今は雑誌ではなく別の媒体でファッションを検索したり学んだりすることが一般化したのでしょうか。個人の意見ですが、働くようになってからは自分好みのスタイリングをするスタイリストやモデルをネットの海から探す気力がなくなり、1冊買えばある程度の着こなしを提案してくれるファッション誌に頼るようになった気がします。
希望的観測ですが、20代向けファッション誌より減少比率が少ない30代向けファッション誌はしばらく休刊廃刊なく続くのではないでしょうか。
また先のJJの発行元でもある光文社のCLASSY.は30代向け女性ファッション誌の中でも特異な動きを見せています。軒並み他紙が印刷部数を落とす中、2014年から一時期印刷部数が増えているのです。この期間CLASSY.の読者でなかったので詳細は分かりませんが、付録など雑誌購買ならでの特典がファンを増やしたのでしょうか。いずれにせよ他にはない特徴です。
<図6 光文社2誌の推移>
小学館の女性向けファッション誌の状況
さて、ここからは私が現在購入している「Oggi」を発刊する小学館のファッション誌3誌についてです。
小学館にはかつてアラサー向けのファッション誌が3誌ありました。読者の勝手なイメージですが、3誌のイメージ像はこんな感じだと思います。
AneCan:CanCam卒業生用。カワイイが好きだけれどいつまでも大学生向けの服を着ているわけにはいかない。お姉さん服も着たいけどモテも捨てずにコンサバカワイイが必須。キラキラしたい独身女性向け。
Oggi:綺麗な服を着たいけれど、カワイイ全振りはしない。コンサバかつ「仕事できる」風のファッションが多め。明らかに男性受けしない服もちらほら。カチッとバサッとベーシックな服がテーマで自立したい女性向け。
Domani:ターゲット層は比較的広め。毎月発刊をやめたタイミングでターゲットが大きく変わった印象(ママ向けシフト?)。Oggiとターゲットが似ているものの、所得はOggiよりもやや低めで着回しや高見えする服の企画もちらほらあった記憶が。最近は完全にターゲットから外れているので読んでおらず、もしかしたら内容が変わっているかも。
3誌のターゲット層は異なるもののターゲットの年齢は近く、読者でも迷うことが多かったのではないでしょうか。
20代向けファッション誌よりは減少比率が緩やかといっても30代向けファッション誌も印刷部数が爆発的に伸びている状況ではありませんでした。AneCanは毎月発刊を2016年11月号でやめ、休刊となりました。
さて小学館の3誌の印刷部数の動向を見ます。
<図7 小学館発行の30代向けファッション誌の印刷部数>
現在DomaniはAneCanが休刊した時の印刷部数を下回る結果となっています。DomaniもOggiも緩やかに減少は続いていますがその減少速度はAneCanよりも緩やかです。
続いて印刷部数を前期比との比較で見てみます。
<図8 印刷部数 前期との比較>
0であれば前期から変化なし、黒い線より上にバーが伸びていれば前期より印刷部数が増えたことを意味しています。横ばいの傾向が続く30代ファッション誌は各誌まちまち…といった結果です。
しかしやはりファッション誌には季節性があると思うのです。例えば夏服はあまり興味ないけれどコートが気になる秋服は雑誌を買いたい!というように。このような意図から20代ファッション誌と同じく前年同期比の印刷部数変化もグラフにしています。
<図9 印刷部数 前年同期比>
こうしてみるとやはり黄色のAneCanの減少が目立ちます。一時2013年ころは持ち直したものの以降は歯止めがかからず…といったところでしょうか。このグラフを見ると、休刊もやむを得ず、といった判断があったのかもしれません。
同じ目線で見てみると、Oggiは当時のAneCanほどは前年同期比で数字を落としていないことがわかります(ほっ)。
さらに小学館はDomaniの毎月発刊をやめており、(おそらく)Domaniのターゲット層をOggiよりやや上、または働く母に変更しました。これにより小学館内でもすみわけができ、読者の取り合いがなくなったと思われます。
減少比率も緩やか、出版社内のすみわけ整理もついた…ということはOggiはこのまま継続、またターゲットもこのままの姿勢を続けてくれるでしょうか(続けてほしいです)。
そんな希望を持ちながら次の号を楽しみにしたいと思います。
さらに気になったこと
・ターゲット人口当たりの印刷部数
日本人人口の減少に伴い、ターゲットとなる女性人口も減少していると考えられる。雑誌のように1人1冊で十分に需要が満たされる商品の場合は人口減少に比例して供給数も減少しているのだろうか。アパレルや化粧品で検討してみたい。
・ターゲット年代別の印刷部数
今回はごく限られた雑誌しか取り上げなかったが、小学生向け、中学生向け、高校生向けの雑誌の推移も調べたい。JJに代表される20代向けの雑誌が目立って印刷部数が急落しているのか、それとも全世代で同じようなことが起こっているのか。
・電子版の普及
印刷物だけでなく、電子版のダウンロードの考える必要がある。特にOggiはAmazonPrime特典として無料で電子版を閲覧することができる。電子版のダウンロード数を知ることができれば比較してみたい。もはや雑誌の主戦場自体が印刷された紙ではなく電子版に移っている可能性もある。